恐怖の密室にて・・

今朝から、僕以外の家族・・家内、息子、娘達が沖縄に出かけた。
9月に行くはずの小旅行だったのだが、台風のためキャンセル。費用は全額戻してくれたので、延期しており、今日からになったというわけだ。僕はといえば、仕事もあるので、留守番になってしまった。
まぁ、たまには、静かでのんきで良いものだが・・。
今朝、4時に起きて、がたがたと準備を始め、大きな声で「ケイちゃん、早くトイレ出てよ~」とか「ドライヤー入れたぁ?」などと叫び合い、とても寝てられる状況ではない。まぁ、自分以外の家族全員が旅立つのだから、見送りくらいはしてやろうとぼーっとしながらも起きて「きぃつけてけよ。」とセガレに声をかける。
しばらく、よく見ないうちに、セガレも大人っぽくなったものだ。20代前半の青年の成長は早いな・・などと、脈絡のないことが頭をよぎっているうちに準備が整い、出発していった。
ドアを閉め、内側からカギをかけて、さて、どうしようかと考える。まだ、5時ちょっと過ぎだ。
はやすぎる・・
新聞にザッと目を通してから、また、寝た。
お客さんからの電話で目がさめると、外は久しぶりの陽の光がさしており、時計は11時近かった。
冷えたウーロン茶を一杯飲んでから、シャワーを浴びに風呂場に行く。
こういう朝は、熱めがよいのよね。43度に給湯を設定する。
熱い湯を頭から浴びているうちに、頭の回転が通常に戻ってくる。
今日、やらなくてはいけないことを二つ三つ思い浮かべながら、シャワーを止めて歯を磨く。
ゆっくり、時間をかけて磨いたあとに、もう一度、シャワーを浴びる。
コックをひねって、また、熱い湯が気持ちよく顔を叩きはじめた瞬間、ギュィ~~ン、ギュィ~~~ンという異音が浴室内に響き渡った。
な、なんなんだっっ
湯が出っぱなしのシャワーヘッドをもったまま、風呂場をきょろきょろと見回す。なにも起こってはいない。
しかし、異音は続く。しかも、時々、カラカラと情けない音も混じっているではないかっ!
やばい・・
これは、給湯システムに何かトラブルが起こっているに違いない。
爆発?
「世田谷区のマンションの浴室内で、全裸の男性がシャワーヘッドを持ったまま倒れているのが発見された。男性は、50歳過ぎながらもディスコに通う変わった趣味を持ち・・」
新聞記事が目に浮かぶ。
(このへんは、うそ。)
慌てて、シャワーを止める。これで、音もとまるだろう。
と、とまらない。
シャワーの音が止まったせいか、以前より、キュィ~~~ン、カラカラ、キュィ~ンという異音の方が浴室内で大きくエコーしている。
そ、そうか。
給湯システムの元を止めなきゃだめなんだな。
ということは、給湯器・・?
それなら、ベランダだ。・・となると、服を着なきゃいかん。
このまま、ベランダに出て、給湯器を調べているのを、誰かに見られたら、それはそれでまずい。
その間も響き渡る異音に混乱しながら、いろいろな考えが頭を駆けめぐる。
よし、とにかく体を拭いて、パンツをはこう!
非常に明解かつ適切な行動指針がひらめき、僕はすばやく、歯ブラシとコップを持って出ようと、手を伸ばす。
その時、コップの中に立てた電動歯ブラシのスィッチが入っていて、激しく振動しているのに気が付いた。
コップと電動歯ブラシのプラスティック同士が振動して放つキュィ~~~ン、カラカラという異音が、浴室内のエコー効果によって、増幅されていたのだっっ
だ、だれだ・・・
だれがスィッチを入れたのだ?
給湯器のことは全く頭から消え、今度は「ポルターガイストの仕業なのか?」などと恐れおののく僕の両手には、それぞれ、シャワーとコップが握られていたのだった・・・
・・次回には続かない・・