ハードボイルドな夜。

おれは、105円シリーズが好きだ。
百均で、ちょっと可愛い文房具を買ってくるのじゃない。まぁ、それも嫌いじゃないというより、どっちかつーと、好きなのだが・・。
それはともかく、おれは黄色い看板のブックオフの105円コーナーでシドニーシェルダンの、まだ読んでないブツを見つけると、口元をゆがめながらフッと息を漏らし、他のやつに取られるのを警戒しながら急いで引ったくり、レジに向かうのだ。
そんなおれも、シドニーのは、あらかた読んじゃったらしく、このところ目新しい獲物に遭遇することがなかった。
2日前のことだ。
シドニーシェルダンの一連のブツと同じアカデミー出版から出ているディーン・クーンツの見かけない新顔が書棚から、数冊、おれを見上げているのに気づいた。くどいようだが、105円コーナーだ。
クールな手付きで、「何ものも恐れるな」の上下巻を手に取ったおれは、その帯に書かれたコピーに思わず、目を奪われた。
「傑作サスペンス!アッと驚く展開に、今夜のあなたは極楽の中で徹夜する!」
「極楽の中で徹夜」・・なんと魅力的なコピーなのぉ~~っ!
しかも、上下巻が揃っている!!これを見逃すほど、おれは甘くはない。
シドニーシェルダンのブツでも、上巻しかなかったり、逆に下巻しかなかったり、そーゆー状況もおおいのだよ、きみ。
おれは、この上下巻というのは好きだ。もちろん、つまらなかったら上巻も読み終わらないうちに、クールなおれは、他のを読み始めたりしちゃうんだけどね、おもしろいのなら、上巻一気にいっちゃって、そいでもって「お~~~しっ!じゃ、いきおいに乗って、下巻に突入だもんねっ」という、この瞬間が好きなのだ。突入、挿入、巨乳、こういったものは大概好きである。余談だが。
取り憑かれたように「何ものも恐れるな」の上下巻を買い求めたおれは、深夜、おもむろに読み始めた・・
おもしろいっ
う~~ん!引き込まれるストーリー展開だっ!
事件に巻き込まれ、張りつめた空気の中でストーリーは展開する・・
主人公に、完全に感情移入したおれは、手に汗握りながら、夜が更けるのも忘れ読み進んでいく・・
あうっ
もう、上巻が終わっちゃうじゃないかっ
こういう時に下巻も買ってあれば安心なのさっ、うふふ。
クライマックスを迎える直前、一番いいとこで、お約束のように上巻が終わるのは、これは連続テレビドラマの「うわぁ~、ここで終わりかよっ、早く、来週の続きが見てぇ~~!」となる、あの手法と同じなのだ。
だけど、おれは来週まで待たなくたっていいのさ、うふふ。
とは言え・・すでに時計は3時を回り、さすがに、そろそろ寝なくちゃね。
だけど、ここで寝るわけにはいかないでしょうがっ!
上巻の最後で盛り上がった場面の、ほんの続きだけでも読んで寝ようじゃないのぉ。いひひ。
おれは下巻を開き、むさぼるように読み始めた。
おおおおおっっ!
お?
場面が急に変わってるじゃん。急な展開だっ
なるほどぉ!上巻から下巻に入って、話が一旦ちょっと変わって、少しすると、また元に戻るという手法なわけだな。
読んでいく。
しかし、話がよく分からん。
なぜだっ?
そうか!気が付いた!
上巻の最後に数ページ、残ってたんだな。
くそぉ~、あせりすぎたぞ、おれ。
おれは、上巻の最後を注意深く読み直す。

そこには、「中巻につづく」と書いてあった。